アートポスターについて

ポスターとは、どうも印刷物、偽物、なんていう認識の方がたくさんいらっしゃいますが、いえいえ、とんでもございません。フランスではAFFICHES、ドイツ語圏ではPLAKATEといって、その昔はリトグラフで制作され、今でも世界中にコレクターがおりますし、ちゃんとした美術品として扱われている作品も数多く存在します。

ポスターは元々商店や企業の宣伝をするために制作された広告でした。そのポスターを当時は画家に依頼し制作されており、手掛けた画家たちは、シェレ、ロートレック、ミュシャ、スタンラン等そうそうたる画家たちで、彼らの独自性やデザイン性で数々の名作を世に輩出し、現在に繋がるポスター芸術を確立しました。


近代的なポスターが普及したのは、18世紀後半に発見されたリトグラフ(石版画)で19世紀初頭には、ヨーロッパ中に広まりました。リトグラフは直接イメージしたものを版に描けるので、20世紀には入ると作家も積極的に制作し、自身の展覧会告知にも用いるようなりました。

例えば「ムーランルージュ」でお馴染みのロートレック。このポスターにより、一躍ポスター画家としてパリ市民に名を知られるようになりました。また、ミュシャもサラ・ベルナールの演劇のポスターにより、その装飾的でエレガントな女性像で当時のパリの街頭を彩りました。

その後パリで活躍したポスター・デザイナーは1930年代に豪華客船や深夜特急を豪快に描いたカッサンドルや、1950年代からはポップでかわいらしいデザインで一世を風靡したサヴィニャック、おしゃれでモード系なヴィユモなど、今でも人気の高いポスター作家です。


一方でピカソやマティス、シャガールなど、絵画界の巨匠たちも自身の展覧会の告知ポスターをリトグラフで精力的に制作しました。

このように、ビッグ・ネームの作家がオリジナルポスターを多数制作し、パリのムルロ工房の積極策もあって、画家による自作ポスターは流行となり、なによりも自作ポスターは、画家の自分のための広告ですので、多くの画家によって制作されました。


しかしながら前出のムルロ工房は、ビュッフェやカシニョール、カトラン、ブラジリエ等の作家を最後に、リトグラフの手間やコスト、優れた工房の職人さんも高齢でリタイヤするなどの理由で2000年に閉鎖しましたので、現在ではムルロ工房制作のリトグラフの希少性が、ますます高まっております。